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東京地方裁判所 昭和24年(モ)293号 判決

債権者 松岡鎌一

債務者 牧田中

一、主  文

一  当裁判所が右当事者間の昭和二十三年(ヨ)第二八五五号仮処分申請事件について、昭和二十三年十一月二十四日与えた仮処分決定を次のように変更する。

債務者の別紙目録並びに図面表示の土地、建物及び板塀に対する占有を解いて債権者の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを條件として債務者にその使用を許さなければならない。但しこの場合において執行吏は債務者の申出により屋根葺工事の続行を許すことができる。

債務者は右建物の屋根葺工事以外の建築工事を続行してはならない。

執行吏は右命令の趣旨を公示するため適当の方法を取らなければならない。

二  訴訟費用はこれを五分し、その三を債務者の負担とし、その余を債権者の負担とする。

三  この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

二、事  実

債権者訴訟代理人は主文第一項の決定を認可する(但し建物の表示を別紙目録のように訂正する)との判決を求め、その理由として、次のように述べた。

債権者は、昭和十三年六月十五日、東京都大田区入新井六丁目三十六番地の宅地百八十四坪六合五勺をその所有者密嚴院から、賃料一月十八円四十六銭と定め、建物所有の目的で賃借し、同地と他の地主からの借地上に木造建物を建築所有していたが、この建物は昭和二十年五月二十四日空襲により燒失した。債権者はその後もひきつづき右宅地に賃借権を有していたが、昭和二十一年十月一日右宅地及附近の土地は、東京都告示第五〇六号によつて東京復興都市計画区劃整理施行地区に編入せられ、その結果昭和二十一年十二月から昭和二十三年二月までの間に東京都第二復興区劃整理事務所長により別紙目録<省略>並びに図面記載の本件土地百三十五坪七合七勺が右宅地百八十四坪六合五勺(從前の土地という)の換地予定地に指定せられ地主密嚴院にその旨通知せられた。かくて地主密嚴院は、特別都市計画法第十四條により、右通知をうけた日の翌日から換地処分が効力を生ずるまで本件土地の使用收益をすることができるし、債権者もまた從前の土地の賃借権者として本件土地につき、その権利の内容たる使用收益をすることができるようになつた。けだし換地処分の効力が生じたときは、換地は都市計画法第十二條、耕地整理法第十七條により從前の土地とみなされるのであるから從前の土地の借地権者は、換地処分の効力が生ずるまで換地予定地についてもその権利を行使できるものと解するのが当然であるからである。かように債権者は本件土地について、罹災都市借地借家臨時処理法第十條により第三者に対抗できる借地権と占有権を有するのであるが、債務者は何等の権原なくその所有の同所六丁目三十一番地の土地と本件土地にまたがり別紙目録記載の建物を別紙図面記載の位置に建築し、本件土地の周囲のうち右建物の西側及び南側に高さ一間の板塀約二十間を施設して本件土地及び建物を占有している債権者は本件土地の借地権にもとずき建物收去土地明渡の本案訴訟を提起しているが、債務者が右建物の建築を完成したり、土地及び建物の占有を他に移轉してしまうと、その権利の実行をなすにつき著しく困難となるおそれがあるので「債務者の別紙目録並びに図面表示の土地建物及び板塀に対する占有を解いて債権者の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。債務者は右の建物の建築工事を続行してはならない。但し執行吏は債務者の申出により屋根葺だけは許すことができる。執行吏は右命令の趣旨を公示するため適当の方法を取らなければならない」との仮処分を申請し、同裁判所も右と同趣旨の仮処分決定を與えたものである。(尤も債権者は、最初本件仮処分を申請するに際し、建物の表示を大田区入新井町六丁目三十六番地宅地百三十五坪七合七勺上に建築中の木造平家建建坪約十五坪七合五勺と表示したけれども事実と相違するので、右表示を本件別紙目録及び図面の通り訂正する)と。

債務者訴訟代理人は主文第一項の決定を取消す、債権者の本件仮処分申請を却下するとの判決を求め答弁として次のように述べた。

債権者の主張事実中、東京都大田区入新井六丁目三十六番地の宅地百八十四坪六合五勺が密嚴院の所有であつたこと、同地が昭和二十一年十月一日東京都告示第五〇六号によつて東京復興都市計画区劃整理施行地区に編入せられ、その結果本件土地がその換地予定地に指定せられたこと(但し後述のように債務者の換地申請により債務者のために指定せられたものである)債務者が本件土地とその隣接の自己の所有地にまたがり別紙目録記載の建物を別紙図面記載の位置に建築し、本件土地の周囲のうち右建物の西側及び南側に高さ一間の板塀約二十間を施設したことは認めるが、その他の事実はこれを爭う。

一  債務者は昭和二十一年十月二十九日、密嚴院から、右宅地百八十四坪六合五勺を、建物所有の目的で賃料一月一坪につき二円の割合で期間の定めなく賃借した。ところが当時同地は前記の区劃整理に編入せられ、東京都長官(地方自治法施行の日以後は東京都知事、以下東京都知事といふ)から同地上の権利者は換地申請をなすべき旨の告示がなされてゐたので、債務者は同日同地の借地権者として換地指定の申請をしたところ、東京都は昭和二十三年十一月二十二日、本件土地をその換地予定地に指定するとともに債務者に対して右換地予定地全部に亘り從前の土地の賃借権を行使できる旨通知した。元來東京都知事が昭和二十一年十月一日附告示(乙九号証の一、二)で区劃整理施行地区編入地の権利者に対して換地交付のため権利の届出をするよう告示したにかかわらず、債権者は所定期間内にその権利の届出をしなかつたので、東京都知事は從前の土地には借地権の競合なきものと判定して債務者に対して右換地予定地(本件土地)の全部を借地権行使の範囲に指定したものである。かように債務者は法的手続を経て換地予定地の指定及びこれに対する権利行使の範囲の通知を受けたものであつて、これによりその法律上の効果として債務者の本件土地の借地権は排他的効力を生じ、債権者の戰災前有した借地権は消滅したものである。又債権者の主張するように耕地整理法第十七條が本件の場合に適用されると解することはできない。

二  債権者は本件土地に占有権を有するというけれども、戰災後從前の土地に建築準備等の工事を実施したこともなく、また本件土地を占有した事実もない。

三 債務者は昭和二十三年九月中旬から本件土地上に本件建物の建築工事を始め、同年十一月二十六日建築許可を得たが、もともと本件建物は債務者の実弟訴外田原重忠に貸與し債務者から独立して病院を経営させるために建てたものであつて、債務者は本件建物の竣功が間近になつたので、同月初めこれを田原に貸與し田原は債務者からその引渡を受けて本件建物の一室に寝台を備付けて夜間宿泊し、表札も掲げて占有状態を明らかにし、本件仮処分執行当時(同月二十五日)には訴外廣崎康夫の入院申込も確定していたのである。しかも本件仮処分申請当時(同月二十二日)においては、本件建物は屋根瓦の下葺板を張り終え外側の羽目板の釘打が僅か一坪にも足りない位残つていたにすぎず、内部の土壁も塗り終えていたのであり、仮処分執行の当時においては、居住することはもちろん入院患者を收容できる程度に出來上つていたのである。從つて仮に債務者が本件建物を占有していたとしても、本件建物の收去を求める本案判決執行保全のため債務者の占有を解いて執行吏の保管に付し、債務者の使用を許さない趣旨の仮処分を申請することは権利実行保全の目的を超える不当な処分といわなければならない。のみならず、本件建物は前記のように債務者の所有地と本件土地にまたがり建てゝあり別紙図面のようにそのうち五坪二勺九才(建物の西北端を(イ)点、(イ)点から東方に三十一尺の地点を(ニ)点、(イ)点から玄関の方向に三尺の地点を(ロ)点とし西側道路と平行して(ニ)点を通ずる線と、右(ロ)点と東側居室の西南角(図面(7) の点)を結ぶ直線との交点を(ハ)点とし、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)を結ぶ部分)は債務者の所有地上にあり、各部屋の坪数、位置も別紙図面の通りであるのであつて、少くともこの部分は債権者において建物收去を求める権利はなく、從つて本件仮処分の対象から除外せらるべきである。と。

債権者訴訟代理人はこれに対し次のように述べた。

一  東京都知事が昭和二十一年十月一日附で乙第九号証の一、二のような告示を発したことは認めるが、債務者が同月二十九日密嚴院から前記宅地百八十四坪六合五勺を賃借したこと、東京都知事が昭和二十三年十一月二十二日債務者に対して本件土地を右宅地の換地予定地として指定し右換地予定地全部に亘りその賃借権を行使できる旨通知したことは否認する。仮に債務者が前記從前の土地を賃借したとしても、債務者はこれをもつて債権者の賃借権に対抗することができなかつたのであるから本件土地に対する権利も又債権者の賃借権に対抗することができない。

二  本件仮処分執行当時本件建物に田原重忠の表札が掲げてあつたことは認めるが、それは占有を仮装する手段にすぎず、債務者が占有していたことは前述の通りである。また当時の建物の工事出來高は全工程の七八割位であり、居住はもちろん入院患者の收容などできる程度のものではなかつた。本件建物のうちその約三分の一にあたる五坪二勺九才(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)を結ぶ部分)が債務者所有の土地上にあり、その部屋の坪数位置が別紙図面の通りであることは認めるが、残余の三分の二はもちろん、その出入口も本件土地上にあり、不可分一体をなしているので、五坪二勺九才を除く部分だけについて建築禁止や占有移轉禁止の仮処分を求めることはできないから建物全体に対する仮処分を申請することは適法である。

三  本件建物が未完成であり、居住に適しない以上、債務者に建築を続行させ、これを使用させるときは、建物收去の本案判決を執行することが、事実上困難となることは免れ難いから本件のような建築程度において、執行吏にこれを保管させ、債務者に使用させない趣旨の仮処分は権利保全の必要上正当な範囲に属する。と。

<立証省略>

三、理  由

第一、債権者が昭和十三年六月十五日東京都大田区入新井六丁目三十六番地の宅地百八十四坪六合五勺を、その所有者密嚴院から賃料一月十八円四十六銭と定め建物所有の目的で賃借し同地上に木造建物を建築所有していたところ、この建物が昭和二十年五月二十四日空襲により燒失したことは、弁論の全趣旨から当事者間に爭いないものと認めうる。そして右宅地が昭和二十一年十月一日東京都告示第五〇六号によつて東京復興都市計画区劃整理施行地区に編入せられたことは当事者間に爭いがなく、成立に爭いのない甲第十五号証によれば特別都市計画事業の施行者たる東京都知事は昭和二十一年十二月より昭和二十三年二月迄の間に、右宅地の換地予定地として本件土地百三十五坪七合七勺を指定し、その旨の右宅地(從前の土地)の所有者たる密嚴院に通知したことは、一應これを認めることができる。そして一應眞正に成立したものと認める乙第二号証の一、二、四、五、(但しそのうち一、四の公文書の部分の成立は当事者間に爭ない)成立につき爭いのない乙第二号証の三乙第六号証の一、二乙第八号証を綜合すると債務者は昭和二十一年十月二十九日前記宅地(從前の土地)百八十四坪六合五勺をその所有者密嚴院から建物所有の目的で賃借し、同日特別都市計画法施行令第四十五條により從前の土地の賃借権者として東京都第二復興区劃整理事務所長を経て東京都知事にその権利を届出たこと、右第二復興区劃整理事務所長は昭和二十三年十一月二十二日債務者に対し從前の土地に対する換地予定地として本件土地が指定済であり且つ債務者が從前の土地に存する権利の内容たる使用收益をなすことのできる範囲は右予定地の全部である旨を通知したこと、債務者は同月二十四日大田区役所を経て東京都知事に対し本件土地上に本件建物十六坪一合二勺五才を建築することにつき認可申請をし同月二十六日附で認可を得たことをそれぞれ一應認めることができる。元來東京都知事が右の從前の土地を含む地域の区劃整理を施行するに当り、昭和二十一年十月一日附をもつて「当該区劃整理施行地区内に所在する土地の所有者又は所有権以外の権利者は告示の日から一月内に東京都知事にその権利を届出でなけれはならないこと及び無登記の権利者が届出を怠つた場合は換地にその権利を指定してもらうことや、補償金をうけることはもちろん土地区劃整理委員を選挙し、又は選挙されることなどの権利を失う」旨告示(乙第九号証の一、二による)したことは当事者間に爭いのないところであり、債権者がその告示のあつた日から一月内に從前の土地の権利者として東京都知事にその権利の届出を怠つたことは債権者の自認するところである。以上のような場合、從前の土地の賃借権者(反証なき限り債権者は右指定当時まで從前の土地につき引続き賃借権を有するものと一應認められ、從つて債権者は罹災都市借地借家臨時処理法第十條による権利者である)である債権者はその換地予定地である本件土地に対して、その権利内容たる使用收益をなすことができるかどうかまたその場合債務者の本件土地に対する権利との関係如何につき爭いがあるのでこの点につき考える。特別都市計画法第十三條、第十四條によると行政廳が区劃整理の必要上換地予定地を指定したときは換地予定地及び從前の土地の所有者にその旨を通知し、且つこれらの土地の全部又は一部について賃借権等を有する関係者があるときはこれらの関係者にもその旨を通知すべく從前の土地の所有者及び関係者はその通知を受けた日の翌日から同法第七條第一項若くは第二項又は耕地整理法第三十條第一項の規定による換地処分が効力を生ずるまで、換地予定地の全部又は一部について從前の土地に存する権利内容たる使用收益と同じ使用收益をなすことができるが、從前の土地についてはその使用收益をなすことができないのであり、從前の土地の関係者が、右の使用收益をなすことのできる換地予定地の範囲は、右の通知と併せてこれらの関係者に通知することになつている。この場合所有権以外の未登記の権利は、整理施行者の手で直接調査することが困難であるから所定期間内に権利者に申告せしめることとなつている。(特別都市計画法施行令第十條、第四十五條但書)(前記昭和二十一年十月一日附東京都知事の告示「乙第九号証の一、二」も右法條によるものと解する。)そして若し権利者が同令第四十五條但書の定めるところにより権利の届出をしなかつた場合は耕地整理法第三十三條による換地(権利の目的たる土地)の指定を受けることができないのであるが、このことは單に所有権以外の未登記且無届の権利については整理施行者において、換地の指定をしなくても、当該土地の所有者と権利者との話合いにまかせておけばよいという意味であつて、かような換地の指定がないからといつて從前の土地について、存在した借地権等の権利自体が消滅して了うものと解すべきではない。と同様に特別都市計画法第十四條第二項による「使用收益しうべき換地予定地の範囲」の通知が借地権者等関係者になされなかつた場合(未登記無届の場合は通知を期待することはできないであろう)においてもその通知がなされていないという理由からその権利者の換地予定地に対する使用收益権を否定するものと解すべきではない。何となれば特別都市計画法にいわゆる換地処分が効力を生ずるときは、同法第一條第一項、都市計画法第十二條、耕地整理法第十七條により換地は換地認可の告示の日から從前の土地とみなされるのであつて、このことはすなわち從前の土地上の権利は法律上当然換地上の権利に移行し、別段の規定がある場合の外はこれらの権利は唯その客体たる土地を異にする外その他の点では何等の変動は生じないという趣旨と解すべく從つてまた換地処分が効力を生ずるまでの経過的措置としてなされる換地予定地の指定の効果すなわち從前の土地上の権利者が同土地上に有する権利の内容と同一の使用收益を予定地に対しなしうる権能も亦これと同様の関係にたち、いやしくも換地予定地の指定の通知が從前の土地所有者になされた以上該土地の借地権者はその換地予定地について從前の土地におけると同一内容の使用收益を所有者に対し請求しうべきものと解するを相当とするからである。右の見地に立つて本件を見ると、債権者は從前の土地百八十四坪六合五勺に対する罹災都市借地借家臨時処理法第十條の借地権者としてその内容である使用收益権と同一の権利を本件土地上に行使することができるし、これをもつて債務者に対抗できるものというべく、債権者は後に認定するように右使用收益権を妨げる債務者に対し本件土地の引渡を請求することができるものといわなければならない。

第二、債務者が本件土地全部を密嚴院から賃借したこと、(前記認定の事実)債務者が自ら建築主となつて昭和二十三年十月下旬頃より本件建物の建築に着手し、(証人田原重忠の証言によつて認めうる。)同年十一月二十六日附で自己の名儀で建築認可を受け(前記認定の事実)本件建物を自己所有地と本件土地にまたがり建築し、本件土地の周囲のうち本件建物の西側及び南側に別紙目録の板塀を施設したこと、(当事者間に爭いがない)及び乙第二号証の一ないし五、一應眞正に成立したと認めうる乙第三、四号証前掲乙第八号証成立につき爭いのない甲第九号証の一ないし三、甲第十号証の一ないし三、証人田原重忠の証言を綜合して疏明しうる次の事実、すなわち田原重忠は養子に行つたとはいえ債務者の実弟であつて、昭和二十三年五月から本件家屋の傍の債務者方に同居して債務者経営の病院に勤めていたこと、債務者が本件建物を建てたのは竣功の上田原に貸與し花柳病皮膚科の診療室兼住宅として使用させ独立経営をさせる目的であつたけれども、本件仮処分執行当時同建物の建築工事は尚進行中であつたこと、を綜合してみると他に特別の事実がないかぎり債務者は本件仮処分執行当時右建物及び板塀を所有し、且つ占有していたものと一應認めることができる。もつとも前掲甲第九号証の一ないし三、甲第十号証の一ないし三、田原証人の証言を合せ考えると、田原は本件建物の建築費として総額三十五万円中の十五万円を自ら支出し、債務者との間に將來本件建物を田原の所有に移す内約をしていたこと、田原が本件仮処分執行時の一週間位前本件建物の表入口に表札を掲げその一室に寝台を持込み夜間寝泊りしていたこと、本件仮処分執行当日田原が手術を担当することになつていた債務者の患者廣崎某が入院する予定になつていたことを一應認めることができるけれども、この事実をもつて田原が本件建物(板塀を含む)の所有権を取得し、または債務者から完全に引渡を受け独立して占有していたとは認め難いのであつて、甲第九号証の一ないし三、第十号証の一ないし三、や田原証人の証言中田原が最初から本件建物の実質上の所有者であり、また建築主であつて仮処分執行当時には債務者から独立して占有していたような趣旨の部分はにわかに信用できないし、他にこれを認めうる疏明もない。從つて債務者は本件建物(板塀を含む)の建築主兼所有者として、これを收去する義務もあり、また本件仮処分執行当時これを占有していたものということができる。

第三、成立につき爭のない甲第四号証、甲第十一号証の四を綜合すると、本件仮処分執行当時、本件建物の屋根は木端葺を終え、周囲は板張りし、出入口扉及び窓硝子戸を入れてあり、床天井廊下も張つてあつたが、壁は荒壁片側だけを塗つてあり、室内には障子数枚、板戸一枚、鉋屑、鋸屑、板切等が残存していたけれども、瓦葺工事や屋内造作の一部の取付工事等をのこして全工程の八、九割通り出來上り疊、寝台等を備え付けると居住できる程度に出來上つていたと一應認めることができる。右認定を動かすに足る疏明はない。かような次第であるから本件建物收去の本案判決執行保全のためには建物の現状を変更しないことを條件として、債務者に本件建物を使用させることによつても、債権者の申請の目的は達せられると考えられるのであつて、建物を使用させる以上本件土地の使用を禁ずべき格別の理由もないから先に主文第一項の仮処分決定によつて執行吏の保管に移つた本件土地、建物及び板塀は現状不変更を條件として債務者に使用させることが適当である。

債務者は、本件建物のうち五坪二勺九才(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)を結ぶ部分)は本件土地上に存在せず、本件建物收去請求権(從つて本件仮処分請求権)の対象となりえないから、この部分に対する本件仮処分決定は取消さるべきであると主張するのでこの点について考える。本件建物のうち五坪二勺九才が本件土地外にあり、その部分が債務者主張の通り別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)を結ぶ部分に該当すること、右建物の各部屋の坪数位置が別紙図面の通りであることは当事者間に爭いがない。この事実によると、右五坪二勺九才の部分には居室二、治療室、診療室各一があるが、いずれもその一室の一部分に該当し、構造上本件土地上にある部分を占有使用しなければ出入ができないのみならず、本件土地上の部分を取りこわせば、当然崩壞する部分にあたり且つ特別の事情がない限りそれ自体、本件土地上にある約三分の二の部分と分離して利用し又は賣買、賃貸借等取引の対象となるに適しないと一應認めうるのであつて、本件の場合、特別な事情の存在することの主張もなければ疏明もない。元來債権者が本件土地の明渡を求め且つその使用を妨げる建物、工作物等の收去を求めるにあたり、その請求をうける相手方となるべきものは、その建物等の所有者やその賃借人等建物の所有又は占有を通じてその土地の使用妨害の状態を生ぜしめているものであつて、もし右五坪二勺九才の部分を本件仮処分の目的から除外すると債務者がその部分の改築工事をしたり第三者に占有を移轉するときは、この部分と前記のような不可分一体の関係にある残余の部分すなわち本件土地上にある部分の收去執行に当り、ある程度の困難性を増すことは免れがたいところであり從つてこのような関係の下にある本件土地上の建物收去土地明渡の請求権保全のために建物の保管者を定める本件仮処分においては、独立して利用し又は取引の対象となりえない右五坪二勺九才(観念的には建物收去請求権の対象ではないが)を含む本件建物全体を仮処分の対象とすることはもちろん建築工事の続行を禁止することもまた、権利保全の目的を達するため必要な仮処分であると考える。從つてこの点に関する債務者の主張はこれを採用することができない。

第四、右の次第であつてさきに当裁判所が與えた決定を主文第一項の通り変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條を仮執行の宣言につき同法第百九十六條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岸上康夫 武藤英一 緒方節郎)

(別紙図面)<省略>

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